治療の主役「薬」の現場(5)

取 材:2026/4月
-これまでの経歴を教えてください
大学卒業後、新卒で当院に入職しました。最初の3年間はセントラル業務を担当し、その後は病棟業務に携わり卒後11年目になります。
-若いころのお話を伺えますか
とにかく薬の種類が非常に多いので、覚えることに苦労しました。定番の「今日の治療薬」もアンダーラインと付箋だらけになりましたよ。実際に調剤で扱った薬を一つずつ覚えていくことが最も効果的でしたが、頻度の低い薬は今でも都度調べ直しています。
-印象に残っているエピソードはありますか
服薬アドヒアランス(患者自身が病気や治療内容を理解し、主体的に服薬を継続すること)が低い患者さんへの対応が印象に残っています。入院時に持参薬の残数を確認したところばらつきがあり、詳しく話を聞くと朝の服薬ができていないことが分かりました。生活リズムの影響で昼頃に起きるため、朝1回の糖尿病や血圧の薬が全然飲めていなかったのです。そこで医師と相談し、薬を昼にまとめるよう調整したところ、服薬状況が改善して、ちゃんと血糖値も血圧も下がりました。患者さんからも「これなら飲める」と言っていただけたことが印象的でした。
-認定薬剤師資格をお持ちですね
病棟では消化器領域を担当し、がん患者さんと直接関わる機会が増えました。しかし、副作用で苦しむ患者さんに当初は指導やアドバイスがうまくできず、もどかしさを感じました。その経験から、より専門的に関われる分野としてがん領域に興味を持ち、がん薬物療法認定薬剤師の資格取得を目指しました。
-資格を取るまでの過程を詳しく教えてください
がん薬物療法認定薬剤師は、5年以上の実務経験に加え、他施設で2か月の研修や学会参加などの条件を満たしたうえで試験に合格する必要があります。私は9年目で取得しましたが、試験は一度不合格となり、2回目で合格しました。再受験では業務負担を軽減してもらい、周囲のサポートを受けながら勉強に集中しました。プレッシャーはありましたが、「ここで終わるわけにはいかない」という思いで乗り越えました。試験後には、自分が携わった25症例をまとめてレポートを提出する必要がありましたが、これも貴重な経験になりました。
-試験までどのように勉強しましたか
まず、教科書や専門書を中心に学びます。ほかにも、学会の講習会やメーカーの説明会なども活用しました。がん治療薬は種類が多く、新薬も次々に登場するため、継続的な情報収集が欠かせません。もちろん、日々の仕事で実際の症例を通して学ぶことで、より理解が深まったと感じています。
-資格取得して、ご自身の仕事は変わりましたか
知識が増えたことで、患者さんや医師への提案が以前よりできるようになりました。また、薬剤師同士や看護師から相談を受ける機会も増え、専門性を活かしてチーム医療に貢献できている実感があります。
-主治医や看護師との役割の違いはありますか
完全に役割を分けるというよりは、互いに重なり合いながら補完し合う関係です。お薬の詳しい説明を担うのは薬剤師の役目になりますが、その中で時には患者さんが医師に伝えられなかった抗がん剤の副作用症状を薬剤師に話してくれることもあって、そこから治療の改善につながることもあります。患者さんのために連携して相互にカバーしあうことが重要だと感じています。

-経験による成長はどこに現れますか
知識量の増加だけでなく、調剤や判断のスピードが向上します。また、患者さんや多職種とのコミュニケーションも効率的に行えるようになります。必要な情報を短時間で引き出す力は、経験によって磨かれていくと感じています。
-患者さんへの対応で生かされていますか
患者さんごとに副作用の出方や生活背景が異なるため、それぞれに合ったアドバイスをすることが難しいと若い頃は感じていました。提案をしても症状が改善しないこともあり、そんな時は自分の知識や経験不足を実感したものでした。しかし、今は薬の使い方から、生活面の工夫まで、患者さんに必要な知識を上手く伝えられるようになったので、色々経験して学んできたことが患者さんのお役に立っていると感じます。

-今後取り組みたいことは
外来のがん患者さんへの関わりを強化したいと考えています。現在は入院患者への対応が中心ですが、外来では十分に介入できていない現状があります。また、地域の調剤薬局との連携も課題であり、情報共有をより円滑にすることで患者さんの治療を継続的に支えたいと思っています。
-そのように考えたきっかけは何ですか
退院後に抗がん剤の副作用で皮膚症状が悪化し、再入院となった患者さんを経験したことが大きなきっかけです。外来や調剤薬局との連携が十分であれば、早期に対応できた可能性があり、体制の改善が必要だと感じました。現在も調剤薬局からトレーシングレポートをいただき経過をフォローしていますが、そこをもっと拡充できないかと考えています。

-家庭との両立について教えてください
これまでに2回育児休業を取得しました。特に双子が生まれた際には半年間休みを取りました。子供が小学校に上がるまで育休が取れるのですが、最初の半年は90%近いお給料をいただけるので、私はそこまで育休を取りました。育休中は食事当番などの家事も均等に分担しましたし、夜の睡眠も交代でとって、妻に負担が偏らないよう工夫しました。この5年ぐらいで、私のほかにも育休を取った男性薬剤師が2名います。職場の理解もありましたし、本当に恵まれていると感じます。子育て中の女性薬剤師も何名かいますが、全員が「お互い様」という気持ちで助け合っていると思います。
-当院薬剤部をめざす方へメッセージをお願いします
病院薬剤師の仕事は、決して楽なものではありません。しかし、調剤薬局よりも患者さんに直接かかわる機会が多く、自分の仕事で喜んでいただけると、これ以上のやりがいはありません。当院は総合病院ですから特定の分野に限定されず、オールラウンドな知識を身に着けることができます。その中で認定資格を目指し、専門性を磨く機会もしっかり用意されています。興味があれば、ぜひ一度見学に来てください。


