治療の主役「薬」の現場(3)
取 材:2026/4月
―ご自身のお仕事について、これまでの歩みを教えてください
病院薬剤師として働き始めて10年以上が経ち、セントラル業務(注1)・病棟業務・がん化学療法など、さまざまな現場を経験してきました。最初は調剤室での基本業務に必死でしたが、少しずつ任される仕事が増え、病棟担当として患者さんのベッドサイドで薬の説明をしたり、多職種カンファレンスで治療方針を議論したりと、薬剤師としての視野が大きく広がりました。
注1 病院内で使用される医薬品を中央で一括して管理、調剤、払出する業務。
―新人の頃どのように育てられましたか
日々の業務では、「わからないことをそのままにしない」という姿勢を特に大切にするよう教わりました。疑問を持ったときにすぐ相談できる環境があることで、知識が確実に積み重なり、判断力も自然と磨かれていきました。薬局内には「困っている人を放っておかない」という文化が根づいています。忙しいときでも声を掛け合い、ミスを防ぐためのダブルチェックを徹底し、誰もが安心して働ける雰囲気を大切にしています。若手が萎縮せずに質問できる空気があって、それが成長の土台になるとみんなが考えているのです。
―今も記憶に残っている仕事はありますか
私の中で特に印象に残っている出来事は、がん化学療法に携わるようになって間もない頃、強い副作用に苦しんでいた患者さんについてです。治療は順調に進んでいるものの、悪心や食欲低下が続き、このままでは治療継続が難しくなる状況でした。病棟で患者さんの訴えを丁寧に聞き取り、これまでの経過や併用薬を整理し、医師へ副作用軽減のための処方提案を行いました。提案が受け入れられ、数日後に患者さんが「食事が少しずつ取れるようになったよ」と笑顔を見せてくれたとき、薬剤師として治療に関わる意義を強く感じました。
―それは病院の薬剤師でないと経験できないことですね
はい。患者さんに接する密度が濃く、長く拝見できます。また、電子カルテからあらゆる情報を得ることができるので、薬剤師の仕事がどんな成果をあげたかを自分の目でしっかり見ることができます。だから、病院の仕事は大きなやりがいがありますよ。もちろん、知識不足で悔しい思いをしたり、判断に迷って先輩に助けてもらったりと、乗り越えてきた壁もたくさんあります。それでも、患者さんの苦痛を少しでも和らげ、治療を支えるために多職種と協力しながら成長していく過程は、今の自分にとって大きな財産になっています。
―どのように若手を育成していますか
当院では、若手薬剤師が安心して成長できるよう、明確な育成プログラムと温かい職場環境の両方を大切にしています。入職後の最初の半年間は、薬剤師としての基礎をしっかり身につけてもらうためにセントラル業務を中心に経験してもらい、調剤業務と注射管理(注2)・無菌室業務(注3)を1か月ごとにローテーションしながら取り組みます。段階的に業務範囲を広げていくことで、調剤・病棟・チーム医療といった幅広い役割を無理なく習得できるよう工夫しています。
注2 注射薬の払出、在庫管理などの業務
注3 無菌室で行う抗がん剤などの調製業務
―資格取得にも力を入れていると伺いました
認定薬剤師や専門薬剤師の取得を後押しする体制も整っており、若手のうちから専門性を高めたいという意欲にしっかり応えられる環境です。私の場合は、がん薬物療法認定薬剤師の資格を8年目に取得しましたが、色々後押ししてもらって感謝しています。この資格を取って知識も非常に増えましたし、提案の引き出しが増えたことが現場で役に立っています。たとえば、化学療法つまり抗がん剤の治療では様々な副作用が出てきますが、それを抑えていく支持療法が欠かせません。手足にしびれや痛みが現れる抗がん剤もあるのですが、症状の出現や日常生活への支障をモニタリングし、しびれを和らげる薬の提案や、場合によっては抗がん剤の減量や休薬を進言したりすることもあります。抗がん剤治療を続けられるかどうかは、薬が効くか効かないかだけで決まるものではありません。治療に伴う副作用をどのようにコントロールし、患者さんが治療を続けられるよう支えていくか――そのサポートこそ、薬剤師の大切な役割だと感じています。
―他の職種の方々と働いて感じることはありますか
病棟に配属された時は色々吸収できて面白かったですね。たとえば主治医の先生は、薬の知識も豊富ですが、患者さんの社会背景まで色々と理解した上で、しっかり根拠のある治療の選択をしていました。スペシャリストの姿勢に感銘を受けました。それから、看護師さんは患者さんに接する時の話し方が上手ですよね。患者さんの体調を良く観察して言葉を掛けていますし、家族関係のことまで理解して患者さんを励ましている所なども学ぶところが多かったです。
―中堅としてどんな役割を担っていきたいですか
まず資格を活かして癌の患者さんの治療にもっと貢献していきたいと思っています。うちには認定薬剤師の先輩がいますが、早く追いつけるように仕事の精度を上げないといけません。他にも調剤薬局の薬剤師さんとコミュニケーションを取りながら癌患者さんをフォローしていくことが増えていますし、薬剤師さんたちの研修会で講師をする機会もありますので、地域の核となる薬剤師として成長していきたいと思います。もちろん当院の若手の指導にも力を入れていて、彼らを束ねていくのも私たち世代の役目です。
―当院の薬剤師をめざす方にメッセージをお願いします
薬剤師の仕事は、患者さんの「安心」と「治療の継続」を支える仕事です。責任は大きいですが、その分、患者さんの回復に貢献できたときの喜びは何にも代えられません。医療の現場で誰かの力になりたいという思いを持つ皆さんと、苫小牧市立病院で共に学び、成長しながら働ける日を心から楽しみにしています。

